食育、そして現状

高校生ぐらいの男子5人が各々、精一杯突っ張った服装で鍋を前に大声で騒いでいた。 虚勢を張るが如く大声で騒いでは写メを取り合っている。
その前の鍋では長い間放置された肉が手を付けられる事もなく大量に煮え切っていた… 

猪を解体した翌日、ヨメ様と近所のしゃぶしゃぶ食べ放題の店での出来事だった。
まだ、屠殺・解体の感触が生々しく手に残っている状態でこの光景を前にして心が深く、塞がって行く。

無い物ねだりなのだろうか、食育とは。
出来ることなら若い彼らにも先日の経験を僅かばかりでも体験させてあげたい。
彼らの目の前の、廃棄される食材はちょっと前まで我々と同じ、同じこの世に存在していた命のはずなのだから…。

猪を解体する

生暖かい肢体を二人掛かりで軽トラの荷台に運び込み解体の準備をしているお百姓さんの庭先に運び込む。 大きい方は80kgはあろうか。足元が悪い畑では腰が抜けそうになる。


前回同様、ホースから水を出しながら首の動脈にナイフを差し込む。

暖かい鮮血が迸り、側溝に流れていく。
出来るだけ素早く血を抜くために脚を持ち上げ、逆さにして後脚を屈伸させて血の流れを促進させてみる。

10分くらいか、この状態で血抜きをしたが血の流れが悪いので頭をカットする事にした。 一旦軽トラの荷台に作った作業台に載せ頸椎以外の部分をカット、頸椎はナイフでは無理なのでノコギリで切削した。

更におびただしい血が切り口から噴き出す。
ホースの水で流し出しながら両脚を持ち上げてしっかりと血を押し出す。 
噴き出す血がなくなるにつけ、その切り口から”肉”に変わっていく。

ざっと洗い流し軽トラの荷台に運び込み、脚を手前にして解体作業を開始。
先ずは首元から腹周りまで直線的にカット。 内臓、特に膀胱と大腸には傷つけないよう慎重に切り込んでいく。 

内臓を包む薄い膜を慎重にカットし、膀胱や大腸を傷つけないよう更に慎重に内臓にアプローチしていく。
内臓系はスキルが必要なのでリーダーのお百姓さんに任せ、ボクは別のナイフで皮を剥いでいく。 
脚首まで剥ぐと硬いスネはノコギリでカット。
小さい方の猪は骨も柔らかいので上手く関節にナイフが入ると綺麗に分離できるが大きな猪は何もかもが硬い。 しかし同じ作業でも大きな猪だと取れる肉の部位も大きいので効率は高い。 
小さい猪の方が身が柔らかいらしいが肉の取り分けの際に混ぜてしまったので区別が付かなくなったのが悔やまれる…


考えてみれば現代の我々は解体どころか親族の死すら病院という隔離された環境で行う為、命の消える瞬間に立ちあう機会が皆無。
しかもそれすら消毒液の匂いに囲まれた特殊な空間なので胸に突き刺さる様なリアリティが決定的に不足する。
頭では理解していても体験として消化していなければ、”死”、そして命の尊さ、そして我々の”業”を理解するなど到底無理な事であろう。
暗澹たる気持ちでしゃぶしゃぶ店を後にした…

とりあえず、Vol3に続く…。