商品を世に送り出す、縁
20年の会社員時代にイチバン心に残ったコトの一つは当時、ベトナムの市場占有率が高かった冷蔵庫市場に、更にベトナム専用モデルを企画・開発・導入した時だった。 ハノイにも欧米型市場経済が浸透しつつある、もう20年近く前。
ベトナム人の使い勝手に合わせた商品開発にボクも加わり、商品導入・お披露目に同地に訪れた際に見た光景が今も忘れられない。
市場調査の日、ハノイの電気屋街でその新商品の冷蔵庫を自転車の荷台に強引にくくりつけ、満面の笑顔で自転車を押す汚いおっさんの姿だった。
涙が出そうなくらいに感動し、汗ダグのおっさんが小さくなるまで見送った。
会社員時代は世界各国で滅多に食べれない美味しいモノや珍しい光景、イランや戦時直後のクエート、アフリカ、サウジアラビアや中国奥地などいわゆる先進国に全く縁がなかったが、一番心に残ったのはこのおっさんだった。
チルコロを開業して8年。 もう5年くらい経つだろうか、まだ全然商売が機能していなくて悶々としていた雨の日、ふらりと若い会社員が一人訪ねてきた。 店の外観から自転車関係の店と思ったらしくこちらも暇だったモンでコーヒーをご馳走して話し相手に無理矢理付き合わせた。
それが泉南の森田アルミ工業の社長との出会いだった。
当時会社で取り扱う再生プラスチック材料を使った床材で自転車ラックを試作してみたのでその商品テストを思案していたのだった。 テラスの床材としては既に実績のあるこの材料の他分野展開を考えてたが自転車という異業種なので本当に使えるかどうか実証検証を考えあぐねていた。
その頃チルコロでは自転車ラックには外壁工事の足場などに使われる、いわゆる単管のラックを使っていたが見栄えがまるで工事現場の様。
森田社長のアイデアのラックはネームプレートやバイクラックの記述もあり見た目も店舗にマッチするのでテスト品の実証試験に喜んで参加させてもらった。
実際に使ってみると高さや強度、耐久性や使い勝手に色々改善点はあったが全て快く対応してもらい本当に恥ずかしくない商品が出来た。
自転車用品の自転車ラックはその点機動力や使い勝手を優先にしているのでレース会場では映える。が、手前味噌だが建材メーカーが作るこの自転車ラックは住居や店舗のデザインとの親和性が非常に高い。
外観に溶け込む素直さは、本当にこの社長の人柄を物語ると自信を持って人に薦められる。
この商品も既に地方自治体や法人に納品が次々に決まっているらしい。
開発の末端に加えてもらったモノとしては涙が出るほど嬉しい。
雨に濡れながらワケのワカラン店におずおずと入ってきた森田社長を思い出す。
相変わらず細々とした商売ではあるが、それ故に、色々なヒトと出会い、語らい、結びつき、広がっていくコトの素晴らしさ、その価値を噛み締めよう。
人との縁が問われる、今だからこそ。